〜北山陽一 編〜



 村上てつやのメンバー探しの旅は、まだ続いていた。昼休みに黒沢からの愛友弁当を食べている村上の耳に、澄んだピアノの音が届いた。その音に吸い寄せられて行ってみると、眼鏡をかけた少年のような男がその音を奏でていた。
「この曲おまえが作ったの?」村上の突然の問いにその男は取り乱し、その拍子に楽譜と数冊のノートが床に落ちた。しゃがみこんでそれらを拾うのを手伝い、上を見上げたその時、村上はベースヴォーカルに最適の大きさ、膨れ具合の喉仏を発見した。
「こいつが欲しい」村上は思った。
「おまえの曲はいい。おまえの喉仏も最高だ。名前は?」
「北山陽一です」怪しい人への不信感一杯にその男は名乗った。
「僕、次、講義があるんで…」と逃げようとする北山にヘッドロックかけながら村上は言った。
「俺がお前の曲と喉仏を有名にしてやるから、俺についてこい」
 村上の強いヘッドロックで意識を失いそうになった北山は首をうなだれた。それを、村上は同意の頷きと勝手に解釈した。こうして半ば強制的に北山陽一はメンバーの一人にさせられていた。別れ際、村上は弁当箱に入っていた爪楊枝で食後の歯のお手入れをしながらこう言った。
「俺達仲間なんだから、テスト前にノートのコピー持ってこいよな」


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