〜安岡優 編〜



 村上、黒沢、酒井、北山の四人でいくらストリートライブをやっても誰も立ち止まってくれなかった。メンバーは悩んでいた。
「俺達の何がいけないんだ、顔か?」村上は問いかけた。
「髪型かも…」酒井は言った。
「振付かな…」北山は言った。
「服装かも…」黒沢は言った。
 むなしい時間がしばし流れた。
「上でも下でもハモれて、リードもできる奴がいれば俺達の歌はもっと深くなるはずだ。そして、俺のギャグと黒沢のボケに酒井がつっこみを入れて北山が最後のトドメを刺して終わりじゃなくて、そこからフォローしながら次の話題に移せる奴がいれば、俺達の笑いにもメリハリがつくはずだ。そんな奴が必要なんだ。」
 村上の提案にみんなは同意し、四人はその条件に合う人間を探し始めた。しかし、そんな条件に合う人間など簡単に見つかるはずも無かった。「無理かな」そんな雰囲気がメンバーに流れた。
「俺達の条件に合う奴がいないなら、そんな奴を作ればいいじゃないか」村上は言った。
 こうして、四人は最後のメンバーとしてからくり人形を作り始めたのだ。
「かわいい感じにしようよ」酒井は言った。
「いろんな髪型のカツラを作ろうよ」北山は言った。
「頬にほくろとかあればいいんじゃない」黒沢は言った。
「思いっきり色っぽい声にしようぜ」村上は言った。
 四人の希望を込めたからくり人形は完成し、その人形は「安岡 優」と名付けられた。安岡優は本当によく出来たからくり人形で、四人に予想以上の歌声とかわいらしさを披露した。しかし、その素晴らしい歌声を出すために安岡人形の体内は非常に複雑な構造となり、喋る機能までその体内に収めることは出来なかった。しかたがないので、安岡人形の喋りは村上が腹話術で担当することになり、村上は日夜練習を繰り返した。この腹話術の練習から村上の脅威のファルセットは誕生した。
「準備はいいか?」
 村上は安岡人形の背中のねじを巻きながらメンバーに声を掛けた。三人と一体は頷いた。
「僕達は最高のメンバーだよね。I need you!」
 安岡人形は高く両手を上げた。村上が今まで恥ずかしくて言えなかった思いを安岡人形は言葉にしてくれた。村上はいとおしそうに安岡人形の頭をなでた。
 四人と一体は静かにステージへの坂を登り始めた。坂の途中で村上は立ち止まった。
「これから、ゴスペラーズの戦いが始まるんだ。みんな俺について来い!」


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